屏風岩東壁ルンゼ〜前穂東壁Dフェース


屏風岩東壁全容 イメージ

1983年4月28日〜5月5日
 パーティ/L 小田中 智、藤原 豊

穂高岳周辺概念図

5月1日(雲り)
 昼、上高地から入山。時間的に遅いこともあり横尾までの道は登山者も少なくすいている。
 横尾の吊り橋を渡ったあたりからは雪の上を歩き、適当な所で屏風岩T4尾根下部付近を目指して横尾谷を横断する。
 途中、屏風岩を何度も見上げては登るルートを追ったり、1ルンゼ、東壁、右岩壁等の各ルートを小田中から教えてもらう。
 実のところ私自身、本番での岩登りの経験は夏の剣岳、谷川岳しかなく、穂高岳周辺はゴールデンウィークに北尾根5・6のコルから前穂高岳、奥穂高岳へ歩いたくらいで、今回のように壁に雪や氷がついているこの時期の継続登攀は、私自身かなり背伸びの内容であったが、連続登攀は私の目標としていたことでもあり、不安よりは期待のほうが断然勝っていて、早く岩に取付きたい気持ちで岩を見上げていた。


東壁ルンゼ イメージ

 東壁ルンゼ下部岩壁、いよいよ登攀だ。スラブを4P、160m(1P目はかなり雪で埋まっている)と草付き150mでT3、今日はここまでの予定である。
 1ピッチは小田中トップでツルベ式で登る。トップは個人装備しか背負ってないのでその分セカンドが背負い、セカンドはユマーリングをして素早く登る。
 下部岩壁は比較的傾斜のゆるいスラブで、途中、小凹角がある。残置支点はほとんどリングボルトで、ボルトに乗ったり、残置シュリンゲをつかんでのA0で快適に登る。所々にレッジがありビレイポイントになっている。
 T2、T4にはすでに先客がいる。我々もT3の雪を削ってツエルトを張る。周りの景色は見えるが空は今日1日厚い雲に覆われていて、夜半からは雨が降りだした。

コース/上高地〜横尾〜東壁ルンゼ取付〜T3


5月2日(雨のち曇り)
 朝、雨は時々強く風に流され、横尾の谷をカーテンが揺れるように降っている。天気の回復を期待してプチ沈殿する。
 11時頃雨が止み、ツエルトを撤収し登攀開始。T3から上はA0が2P、A1が3P、A2が1P、4級フリーが2Pの全8P、300mの登攀だ。
 最初から水が滴り、アブミを交えた人工でピッチを稼ぐ。人工がメインのためルートも比較的わかりやすく、残置もしっかりしており、その点は問題はない。急傾斜のピッチはザックを吊り上げる。
 そして今日6ピッチ目、ルートの核心部「への字ハング」へ来た。約25mザイルを伸ばし5mのハングを越えなければならない、その後、垂壁15mで終了だ。時間は18時に近い。
 小田中がザイルを伸ばす。ほとんど暗くなった時、わずかに明るい空に小田中の体が浮き出た。ハングの先端、出口だ。出口が少し悪いみたいでザイルが流れない。しばらくしてOKのコールがあり、ヘッドランプをつけ完全夜間登攀でフォローする。ここは荷物の吊り上げができないので、荷物を背負って登り出す。
 「への字ハング」を越え、ビレイポイントに到着しひと安心する。残りは傾斜の落ちた3ピッチをA0で登り、東稜上部の草付きに合流し終了した。
屏風岩東壁ルンゼルート図
  時間はは22時、屏風ノ頭までの途中、雪の平らな所を見つけてツエルトを張り、ポタージュを1杯飲んで寝る。


東壁ルンゼ下部をユマーリングする小田中

コース/T3〜東壁ルンゼ上部壁〜終了点の上


5月3日(晴れ)
 朝、ラーメンを食べて出発する。今日は屏風ノ頭から前穂高岳北尾根3・4のコルまでの縦走だ。
 出発して7時頃、東壁上部にヘリが飛んできて「への字」あたりから上をなめるようにホバリングしている。歩いている我々を確認すると壁から離れ信州側に向かって蝶ヶ岳を越えて行った。
 前穂高岳北尾根はクラシック中のクラシックだ。3峰以下のピークははっきりしており、アップダウンは登りがいもあり、高度感は抜群だ。周りの景色は超絶品である。
 16時3・4のコルに到着し、テントを張った跡をみつけてツエルトを張った。


屏風ノ頭にて 小田中


北尾根と吊尾根 イメージ

コース/終了点の上〜屏風ノ頭〜北尾根〜3・4のコル


5月4日(快晴)
 今日の予定は、前穂高岳東壁Dフェース都立大ルート約5ピッチだ。
 3・4のコルから奥又白側へC沢を下降する。凍ってはいないが密度のつまった急な雪の斜面の下りは度胸一発だ。転んだらまず間違いなく一巻の終わり、斜度はどれくらいか、雫石スキー場の「熊落とし」なんてものじゃない。寒いけどヤッケを上下脱ごうかと思うくらいだ。
 200m位下降し、B沢の雪壁をノーザイルで登って取付きだ。ルートの下半分は雪もつかず快適なクライムだったが、やがて上部から氷が落下し始めた。日に照らされた上部の氷が一斉に落下し始めたのである。ルートには落下してこないが、直ぐ近くをうなりをあげて落下するのにはビビッた。
 中間から上は所々氷が張りつき、最終ピッチは出口からのツララが大きく岩に張り付いて残置支点が厚さ40cm位の氷の中に見えている。ハンマーで氷をたたき落としてランニングを取る。
 氷と格闘し雪壁に出ると「ザイル一杯」のコール。北尾根縦走路まであと10m、雪壁にきのこを切ってビレーポイントを作る。右を見ると前穂高岳の頂上はすぐそこだった。小田中に縦走路まで上がってもらって終了。
 前穂高岳のピークに立つ。天気は快晴で、360度の大パノラマが緊張感を和らげてくれた。明神岳のコル手前から、奥明神沢を尻セードで岳沢まで一気に下る。後は松本で風呂に入り、居酒屋で軽く一杯やるだけだ。
 帰途、自分自身「よくやれたな」と思いながら、「帰ったらさらにトレーニングをして、来年はあそこのルートだ」と、それをやっている自分を想像しているのだった。
前穂東壁Dフェース都立大ルート図


都立大ルート下部


奥穂と北穂 イメージ

コース/3・4のコル〜C沢下降〜B沢〜Dフェース都立大ルート〜前穂高岳〜奥明神沢〜岳沢〜上高地

                            盛岡山想会山懐10号より掲載 記:藤 原  豊
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