谷川岳一ノ倉沢 衝立岩中央稜・烏帽子沢奥壁中央カンテ

谷川岳一ノ倉沢 イメージ

1977年9月14日〜18日
 パーティ/L 土門 一男、小田中 智

 8月の谷川は雨のため思う存分登れなかったので、今年中にもう一度アタックしようと様子を伺っていると、ちょうど土門と休みが合ったので、久しぶりにザイルを組むことにした。
 ルートは、今度こそ1日2本登る計画で中央稜、烏帽子中央カンテを選んだ。あこがれの谷川も一度行くと近く感じられ、心配なのは天気だけだった。

9月14日
 夜の「いわて3号」で盛岡を後にする。あいにく列車は混んでいて、眠られないまま朝がきた。

9月15日(晴れ)
 土合に降りると晴れの良い天気で、予報と違っているのに気を良くし、登山指導センターに計画書を提出して一ノ倉沢出合に向かった。辺り一面うっすらと紅葉が色づき、単調な道のりを忘れさせてくれた。
 一ノ倉沢出合に着くと、前回は見えなかった一ノ倉沢の全容が手に取るように見え、我々を笑顔で迎えているようだ。テールリッジまでの道は残雪が消えており、渡ることができず、仕方なくもろい小沢を登って沢の左の登山道に出る。
 テールリッジを3分の2ほど登った所にビバークサイトを求め、これからのベースとした。いくらかでも取付きに近い方がトップで壁に取付け、1日に2本登れる可能性が高くなるからである。
 登ってくる途中、昨夜の寝不足のため目を開けているのがつらく、まだ時間も早いが壁を止め、南稜テラスまで下見に行く。初めての土門は間近に迫る壁を見て圧倒され気味の様子だった。
 このビバークサイトは、衝立スラブに少しトラバースすると簡単に水が得られ、静かで快適な所だった。16時の天気図を取ると、高気圧が日本を被っているため雨なんか降りそうもなく、気象台の間違いの予報に感謝した。
 衝立岩の後ろに日が沈み、暗くなった頃、上からヘッドランプの明かりを頼りに2パーティが下ってきた。明日は衝立岩を登ると言う。こんなに暗くなってから下るなんて、よほど通い慣れた人たちだろう。
 明日は早いので、早々にビバークザックに潜り込む。

タイム/土合(10:15)→一ノ倉沢出合(11:25〜11:40)→テールリッジビバークサイト(13:00)




9月16日(晴れ)
 中央稜の西側から真っ赤な太陽が昇ると、いち早く衝立岩が黄金色に燃えている。紅茶とビスケットの軽い食事をとっているうちに、もう登ってきたパーティがいるので、登攀用具だけ持って登り始める。中央稜の取付きから簡単なフェースを少し登り、取付く。
 睡眠を充分とったので快調そのものである。
第1ピッチ(小田中トップ)
 傾斜の緩いフェースを20mほど登ると逆層気味になり、微妙なバランスが強いられる。ピンが2本打ってあるが、体がまだ岩に慣れていないため怖く、強引に5mの逆層を乗り越し、テラスに立つ。
第2ピッチ(土門トップ)
 3m左にトラバースして、泥混じりのルンゼ状に入り、簡単に登ってリッジに立ち、2ピッチを終える。
第3ピッチ(小田中トップ)
 カンテを右に回り込み、凹角を微妙なバランスで越え、フェースに入る。快適なフェースを登って行くとスタンスが細かくなり、ピンが2〜3本並んでいるが、最後の乗り越しがヤバく、考えていると次第に腕が疲れたため、思い切って強引に乗り越す。後続の土門は、クレッターシューズで楽々登ってきた。
第4ピッチ(土門トップ)
 フェースを少し登ると、右のチムニーと左のフェースにルートが分かれ、トップはチムニーを選び入って行った。ランニングビレーに安心感を持ちながら体全体を使ってチムニーを出、草付きの簡単な凹状を登ってテラスに立ち、4ピッチ目を終える。
 晴れてくれたのはいいが、あまりにも良い天気でギラギラ光る太陽に照らされての登攀はきつく、水も飲まずに頑張る。テラスからは次に登る急しゅんな奥壁の全容が見えた。
第5ピッチ(小田中トップ)
 凹角からフェースに入り、快適なフェース登攀を楽しみながら登ると、ブッシュ混じりのリッジは登山道みたいな踏み跡があり、事実上の登攀を終える。

 コンティニュアスでブッシュ混じりのリッジを烏帽子岩へ向かう。所々もろい岩もあり、より神経を集中させて通過する。
 烏帽子岩を15m懸垂で下り、6ルンゼ右股へ草付きを下る。ダブルザイルの2ピッチで、南稜登
中央稜ルート図
攀終了地点の近くの6ルンゼ右股下降地点に着いた。5ピッチの懸垂で下り、水補給のため本谷に下り、ゆっくり休む。
 南稜テラスに登って烏帽子中央カンテの取付きに向かう。計画ではもう1本登る予定であったが、少々時間的に遅く、下降はランプの使用を免れられないこと、腕力減退のため、連続登攀は止めて明日登ることにし、取付きを確認してベースに下る。


衝立岩 イメージ

タイム/ベース(6:05)→中央稜取付(6:20〜6:40)→第1ピッチ(6:55)→第2ピッチ(7:25)→ 第3ピッチ(8:00)→
    第4ピッチ(8:40)→第5ピッチ(9:15〜9:25)→烏帽子岩(10:55)→6ルンゼ下降点(11:40)→本谷(12:50〜
    13:20)→中央稜取付(13:50〜15:00)→ベース(15:20)


9月17日(晴れ)
 烏帽子中央カンテを後続より一瞬早く、今日もトップで取付く。

第1ピッチ(小田中トップ)
 バンドを右に5mトラバースして、溝状のフェースを左上気味に登る。途中にある1本のピンに安心感が出て、快適に登る。
第2ピッチ(土門トップ)
 小さなリッペを左へ越してスラブを左上気味に登る。小さな浮き石が多く、緊張させられるが、簡単な壁のためドンドン高度が上がる。2ピッチまで凹状岩壁とルートが一緒で、後ろのパーティは凹状をさっさと登って行った。
第3ピッチ(小田中トップ)
 簡単なフェースを10m登り、バンドを左上しなければならないが、入り口がぬれていたためそろりそろりと越えるとレッジがあり、グリップビレーで土門を迎える。下からは我々と同じルートを1パーティが登ってきた。
第4ピッチ(土門トップ)
 カンテラインに沿ったザイルが順調に伸びていたが、急に動かなくなり、大分苦労している様子が伺えた。私がビレーしているレッジには後続パーティのトップがきており、しびれを切らして待つ。
 どうやら土門はルートから少しはずれ、ハング気味の所を強引に登ったらしく、左に少しトラバースすると、簡単に登れた。
第5ピッチ(小田中トップ)
 後ろからせかされるようにしてカンテからルンゼへ。ドンドン飛ばすとルンゼが2つあり、奥のルンゼに左上気味に登り、ビレーを取る。変形チムニールートから1パーティ登ってきたので、「このルンゼは変形チムニールートの正面ルンゼで、中央カンテルートは手前のルンゼだった」ことが判った。
 上部で両ルートとも合流するので、そのまま登ることにする。
第6ピッチ(土門トップ)
 不安定な砕石の詰まった正面ルンゼを土門が登り始めると、変形チムニーのトップもすぐ後を追い、交差しながら登る。もう1本登るため大分急いでいるようだ。
第7ピッチ(小田中トップ)
 先行パーティが登っているので正規ルートから離れ、右
中央カンテルート図
上気味にピナクルを右から回り込み、正規ルートに戻る。ここでルートは2つに分かれ、左の凹状を先行パーティが登ったため、正規ルートである右のフェースを直上する。少々浮き石があるが、4級の登攀を楽しみながらザイルいっぱい登り、小さなスタンスでビレーを取る。
第8ピッチ(土門トップ)
 5mすぐ上にレッジがあり、先行パーティが登っているので待って8ピッチを始める。ハング気味の凹角を残置ピンにザイルをセットし、確実にホールドをつかんで乗り越し、草付きのフェースを右上気味に登る。四畳半テラスには出ないで左上気味にもろいチムニーから草付きに入る。
 ピッチ短縮のため、ザイルいっぱい登ったので5m足りなくなり、ビレーを外してトップにザイルを送る。
第9ピッチ(小田中トップ)
 しばらく草付きだが、岩を拾いながら左上し、傾斜の緩いフェースを登ると凹角があるが、ザイルが5m足りず、セカンドに頼んで伸ばしてもらい、凹角を強引に乗り越し、バンドでビレーする。
第10ピッチ(土門トップ)
 バンドを左にトラバースして傾斜の緩いリッペを登ると、烏帽子岩が真上に見え、核心部の登攀が終わったことを知らされる。我々にとって、今までで一番登攀距離の長い壁を4時間弱で気楽に登れたことに2人とも満足しきっていた。

 下降路は中央稜を下りたいが、このまま登ると烏帽子岩基部に出、それはこちら側から登れないので登攀終了点から烏帽子岩を右に巻こうとするが、ルートがハッキリしなかったため、私がトップで登り始める。微妙なバランスが強いられるリッペを5m登るとバンドが続いており、伝っていくと残置ピンがありホッとするが、ハングになっているため伝って歩けずはって通過すると、ブッシュに行く手を阻まれた。
 下を見ると凹状岩壁にスッパリ落ちていて、怖さが先に立ち、決心を鈍らせる。
 ハーケン1本打って下り、所々にあるブッシュを頼りに岩に爪を立てて越える。後ろからきた土門もひどかったらしく、「今までの登攀で、これがハイライトだ」と言っていた。そうしているうちに親しくなった後続パーティも後ろから来て、同じ様なことを言っていた。
 彼らは北稜を下ると言っていたので途中で別れ、私たちは中央稜をダブルザイルで5ピッチ下る。
 飲まず食わずの登攀に疲れ、ザイルを回収する腕も鈍っていた。ベースに戻り、荷をまとめてテールリッジを下る。すっかり岩にもなじみ、走るようにして一ノ倉沢出合に着いた。


烏帽子岩 イメージ

タイム/ベース(5:55)→中央カンテ取付(6:15〜6:25)→第1ピッチ(6:45)→第2ピッチ(7:03)→第3ピッチ(7:20)
    →第4ピッチ(7:50)→第5ピッチ(8:04)→第6ピッチ(8:25〜8:30)→第7ピッチ(8:50〜9:00)→第8ピッ
    チ(9:30)→第9ピッチ(9:50)→第10ピッチ(10:10)→トラバース終了(10:45)→下降(11:25)→中央稜懸垂取
    付(12:05)→中央稜基部(14:10〜14:35)→ベース(14:45〜15:05)→一ノ倉沢出合(15:55〜16:05)→
    土合(17:10)


反 省
 連続登攀するためには、登った中央稜をそのまま下った方が時間的に早い。また、一ノ倉沢の壁を連続登攀するためには、岩手山の火口内壁を3本以上は登らなければ無理との結論が出た。
 初めの計画からして無理な計画だった。しかし、計画のミスはあったが、あこがれのルートを2本登れたし、自分なりに納得のいく登攀ができ、満足感がいっぱいだった。

                             盛岡山想会山懐10号より掲載 記:小田中 智
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